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ナノDDS製剤化技術を用いて不可能を可能にする!

研究室のねらい

 生体内において特定の物質や粒子が特定の組織や細胞と選択的に相互作用する機能について研究し、その知見と製剤学的な技術を基に、各創薬モダリティの治療効果を最大限に引き出すこと,安定性の向上や侵襲性の低減によりより使いやすいものに改良すること、更にはUnmet Medical Needsの高い疾患の病態の解明と新たな治療法の可能性について調査・研究を進めています。

 

研究室メンバー

(役職:氏名 / 学位)
教 授 :石原比呂之(薬学博士)     6年生:12名
講 師 :濱野 展人(博士 (薬学))  5年生:12名
助 教 :関根 舞(博士 (農学))     4年生:12名
(2024年4月1日現在)

担当講義

(科目: 学年【前・後期】 /教員名)
<必修科目>
 人間と薬学Ⅰ:1年次【前期】/石原比呂之、濱野展人 他
 物理化学Ⅰ:1年次【後期】/石原比呂之 他
 物理化学Ⅲ:2年次【後期】/石原比呂之 他
 物理薬剤学:2年次【後期】/石原比呂之、濱野展人 他
 製剤設計学:3年次【前期】/石原比呂之、濱野展人
 医療薬物薬学特論Ⅰ  創薬概論:4年次【前期】/石原比呂之 他
 医療薬物薬学演習Ⅱ 医薬品の創製と基礎(生物系・医療薬学系):4年次【前期】/石原比呂之、濱野展人 他
 総合演習Ⅱ:4年次【後期】/ 他
 医療薬物薬学英語特論Ⅰ:4年次【前期】/石原比呂之、濱野展人、関根 舞
 医療薬物薬学英語特論Ⅱ:5年次【通年】/石原比呂之、濱野展人、関根 舞
 調査研究コースプログラム 情報収集Ⅲ:5年次【後期】/ 他
 調査研究コースプログラム 情報収集Ⅳ:6年次【前期】/ 他
 総合薬学演習Ⅰ:6年次【後期】/石原比呂之、濱野展人 他
 総合薬学演習Ⅱ:6年次【後期】/石原比呂之、濱野展人 他
 課題研究(実験研究コース・調査研究コース):4~6年次【通年】/石原比呂之、濱野展人、関根 舞

<実習・ゼミナール>
 ゼミナールⅡ:2年次【前期】/石原比呂之、濱野 展人  他
 薬剤学実習 :3年次【後期】/石原比呂之、濱野展人、関根 舞 他

<大学院講義>
 薬剤学特論:博士課程【前期】/石原比呂之、濱野展人 他
 分子創剤制御学特論:修士課程【前期】/石原比呂之、濱野展人 他
 

研究概要

 高い医療満足度が獲得されている疾患治療においては,これまでに多くの低分子化合物を用いた医薬品が開発され,昨今では,これら既存の医薬品に対する新規医薬品の有用性が厳しく評価されることから,新たな医薬品開発の難易度が高くなっています.一方で,罹患者の少ない希少疾患などにおいては未だ有効な治療薬がない疾患も多く,そのUnmet Medical Needsが極めて高いことから,製薬企業やベンチャーによる創薬が活発になっています.特に遺伝子変異が原因となっている疾患においては,低分子化合物による遺伝子の発現の制御が困難であり,これに代わる新たな創薬モダリティとしてアンチセンス核酸やsiRNAなどの核酸医薬品の開発が加速しています.しかしながら,これらの新しいモダリティは,低分子化合物と異なり,作用点のある細胞内へ移行しにくいという課題を有しており,その解決を目的とした誘導体化や細胞内へのデリバリー技術に関する研究に注目が集っています。

 創剤科学教室では,生体内において特定の物質や粒子が特定の受容体や細胞と選択的に相互作用する機能について研究し、その知見と製剤学的な技術を基に、各創薬モダリティの治療効果を最大限に引き出すこと,侵襲性を低減してより使いやすいものに改良することを目的として,以下の調査・研究を進めています.

固体ナノ粒子製剤化技術
 COVID-19に対するメッセンジャーRNAワクチンは世界中で広く使用されていますが、安定性を維持する上で、冷凍状態で流通・保 存することが必須であり、解凍・投与における操作は煩雑です。 一般的に、有機化合物は水溶液よりも固体状態の方が化学的安定性に優れています。当教室では、高分子のプラスミドDNAやmRNAを物理的に安定な固体ナノ粒子とする事で製剤化工程や製剤中での安定性を向上すること、さらには固体ナノ粒子とDDS技術を組み合わせて、経口投与製剤や経粘膜投与製剤などの使いやすい剤形とすることに挑戦しています。
 製剤化研究のみならず、これらの細胞との相互作用や動物に投与した後の体内動態、疾患モデル動物を使った薬理効果などの評価も行います。
 
■食品由来細胞外小胞
 地球上のほとんどの生物は、マイクロRNAやタンパク質などの様々な生理活性物質を含む細胞外小胞(EVs)を細胞から分泌し、他の細胞との間で物質や遺伝情報を交換しています。我々が口にしている食品中にもEVが含まれており、その機能が広く研究されています。当教室では、牛乳に含まれているEV(mEVs)を研究対象として、消化管や免疫担当細胞との相互作用に関する検討を開始しました。当教室において市販の牛乳から抽出・精製して得られたmEVsを用いて、mEVsの投与後に分布する組織や細胞との相互作用に関する研究や、mEVsが有する生物活性に関する検討を行っています。mEVsの体内動態特性を利用した疾患治療用DDS創製の可能性についても検討を進めています。

■経口炎症性腸疾患治療
 核酸医薬品や抗体医薬は、その消化管内での分解と極めて低い吸収性のために、組織内へ直接投与か静脈内投与されます。これらを経口製剤化することが可能であれば、その利便性は大きく改善することが出来ます。我々は、消化器疾患の1つである炎症性腸疾患モデル動物における治療効果を指標として、mEVや固体ナノ粒子を用いたナノDDS製剤の経口投与における有用性に関する研究を進めています。

■がん腹膜播種治療
 がん腹膜播種は、腹腔内にある消化器や肝臓などに発生したがん組織からがん細胞が腹腔内に種を蒔いた様に散らばって広がるがん疾患であり、抗がん剤によって治療されますが、予後は良くありません。我々は、ナノDDS製剤がマクロファージ等の貪食性細胞に取り込まれやすい性質を利用してそれら細胞の機能を修飾することによってがん微小環境を改善し、がん腹膜播種を治療する試みについて検討を開始しました。現在、mEVががん腹膜播種の進行を抑制する可能性について評価が進んでいます。

■先天代謝異常症の病態解明と治療開発
 プリン代謝にはATPや核酸の構成成分であるプリンヌクレオチドの生合成経路と尿酸への分解経路があり、それらは相互に調節し合っています。プリン代謝酵素を先天的に欠損すると代謝のバランスが崩れ、高尿酸血症や低尿酸血症をきたします。さらに、免疫不全(ADA、PNP欠損症)や重篤な神経症状(HPRT欠損症)を呈するものもあります。しかし、その病態機序は十分に解明されておらず、ほとんどの疾患は治療法が確立されていません。当研究室では、疾患患者由来のiPS細胞を解析することで病態機序を明らかにし、製剤学的アプローチにより代謝改善および症状緩和を目的とする新たな治療薬の開発を目指しています。