皮脂と細胞外マトリックスの協調による「健康と美」の追究
- 研究室紹介 -

研究室のねらい

「皮膚バリア機能は,表皮および真皮における細胞外マトリックス(ECM)および防御因子の発現調節に加え,皮膚付属器官である皮脂腺から分泌される皮脂による皮表脂質膜形成により構造的・機能的に制御されている。また,これら皮膚構成組織(細胞)は互いに相互作用することで「皮膚バリアネットワーク」を構築し,皮膚生理機能を精緻に調節している。逆に個々の組織(細胞)の機能低下(老化)または異常は,皮膚細胞間コミュニケーション不全を来たし,皮膚バリアの破綻へと繋がる。当教室は,皮脂腺における皮脂の産生・分泌およびその異常症としての痤瘡(ニキビ)や乾燥肌,皮膚の保湿調節因子であるヒアルロン酸,紫外線や近赤外線と光老化に着目し,それらの生理機能や病態機構の解明および化粧品や治療・予防薬の開発研究を行っている。

研究室メンバー

(役職:氏名 / 学位)
教授: 佐藤 隆 / 博士(薬学)
講師: 水野晃治 / 博士(薬学)
助教: 秋元賀子 / 博士(薬学)
助教: 坂上弘明 / 博士(理学)

大学院生: 1名(D1)
6年生:11名

5年生:14名
4年生:11名
客員研究員:5名
(平成29年4月現在)

担当講義

生化学II:2年【前期】/佐藤 隆,秋元賀子
生化学III:2年【後期】/佐藤 隆,水野晃治
ゼミナール:2年【前期】 /水野晃治
生化学実習:3年【前期】/佐藤 隆,水野晃治,秋元賀子,坂上弘明
代謝生化学:3年【前期】 /佐藤 隆
スキンケア入門:3年【後期】/佐藤 隆,秋元賀子
薬剤師の職能と自己将来展望:4年【前期】/佐藤 隆,秋元賀子
臨床生化学(大学院講義):D1【前期】 /佐藤 隆

研究テーマと概要

1)皮脂の産生調節およびざ瘡(ニキビ)や乾皮症の発症機序の解明と新規治療薬の開発

培養脂腺細胞を用いて皮脂の産生調節機構およびその生理的機能を解明するとともに、ニキビや乾皮症などの皮膚疾患の発症の機序についても検討している。さらに、ニキビや乾皮症などの治療・予防薬の開発に取り組んでいる。

2)紫外線および近赤外線による皮膚障害とその防止薬の開発

紫外線や近赤外線照射による皮膚の急性炎症反応および慢性的皮膚障害(光老化)の分子機構を明らかにするとともに、その予防・改善に有効な新規物質を検討している。また、紫外線および近赤外線等の外的刺激を「ストレス」と捉え、皮膚構成細胞(表皮細胞,線維芽細胞,脂腺細胞および毛乳頭細胞など)におけるストレス応答機構について検討している。

3)抗癌剤によるざ瘡様皮疹の発症機構の解明

抗癌剤投与によるざ瘡様皮疹の発症機構について、皮脂およびステロイドホルモン生合成の観点から検討している。また、薬剤の毛包脂腺系への移行性に関しても検討している。

4)リンパ管形成の分子機構解明とリンパ浮腫改善薬の探索研究

リンパ浮腫の一つである原発性のリンパ管形成不全では、組織液やリンパ液の貯留が生じる。現在、リンパ浮腫に対する有効な治療法は確立されておらず、リンパ管形成促進因子の探索が求められている。本研究では多彩な生物活性を有する脂質メディエーターに着目し、リンパ管形成に対するその作用を検討している。

5)ECM代謝異常の改善を指向した新規薬剤の開発

皮膚老化(しわ,たるみ)などにおけるECM代謝異常を改善する有効な新規天然物質を探索している。

 

主な研究業績

1. Sato T, Akimoto N, Takahashi A, Ito A. Triptolide suppresses ultraviolet B-augmented sebum production by inhibiting the biosynthesis of triacylglycerols in hamster sebaceous glands in vivo and in vitro. Exp Ther Med, in press (2017)
2.  Wang, R., Li, J., Chen, W., Xu, T., Yun, S., Xu, Z., Xu, Z., Sato, T., Chi, B., and Xu, H. A biomimetic mussel-inspired e-poly-l-lysine hydrogel with robust tissue-anchor and anti-infection capacity. Adv Funct Mater 1604894 (2017)
3.  Li, J., Liu, C., and Sato, T. Novel antitumor invasive actions of p-cymene by decreasing MMP-9/TIMP-1 expression ratio in human fibrosarcoma HT-1080 cells. Biol Pharm Bull 39: 1247-1253 (2016)
4.  Imada, K., Tsuchida, A., Ogawa, K., Sofat, N., Nagase, H., Ito, A., and Sato, T. Anti-arthritic actions of b-cryptoxanthin against the degradation of articular cartilage in vivo and in vitro. Biochem Biophys Res Commun 476: 352-358 (2016)
5. Mizuno K, Kurokawa K, Ohkuma S. Nicotinic acetylcholine receptors regulate type 1 inositol 1,4,5-trisphosphate receptorexpression via calmodulin kinase IV activation. J Neurosci Res 93(4): 660-665 (2015)
6. Sakaue H, Takata T,Fujii N, Sasaki H, Fujii N. Alpha B- and bA3-crystallins Containing D-Aspartic Acids Exist in a Monomeric State. Biochim Biophys Acta 1854: 1-9 (2015)
7. Maeda H, Takata T, Fujii N, Sakaue H, Nirasawa S, Takahashi S, Sasaki H, Fujii N. Rapid Survey of Four Asp Isomers in Disease-related Proteins by LC-MS Combined with Commercial Enzymes. Anal Biochem 87: 561-568 (2015)
8. Kurihara, H., Sato, T., Akimoto, N., and Ito, A. Differentiated hamster sebocytes exhibit apoptosis-resistant phenotype by the augmentation of intracellular calcium level in vitro. Exp Dermatol 22 (1), 57-59 (2013)
9.  Sato, T., Shirakura, K., Mukai, K., and Ito, A. Suppression of sebum production and accumulation by b-cryptoxanthin due to the inhibition of the expression of diacylglycerol acyltransferase-1 and perilipin in hamster sebocytes. J Cosmet Dermatol Sci Appl 3(1), 99-106 (2013)
10.  Sato, T., Akimoto, N., Kitamura, K., Kurihara, H., Hayashi, N., and Ito, A. Adapalene suppresses sebum accumulation via the inhibition of triacylglycerol biosynthesis and perilipin expression in differentiated hamster sebocytes in vitro. J Dermatol Sci 70(3), 204-210 (2013)
11.  Mishra, B., Koshi, K., Kizaki, K., Ushizawa, K., Takahashi, T., Hosoe, M., Sato, T., Ito, A., and Hashizume, K. Expression of ADAMTS1 mRNA in bovine endometrium and placenta during gestation. Domest Anim Endocrinol 45(1): 43-48 (2013)
12. 林 伸和,佐藤 隆 大学生を対象とする座癒の有無と生活習慣に関するアンケート解析結果の報告,皮膚病診療 35(3),314-318 (2013)
13. Sato, T., Shirane, T., Noguchi, N., Sasatsu, M., and Ito, A. Novel anti-acne actions of nadifloxacin and clindamycin that inhibit the production of sebum, prostaglandin E2, and promatrix metalloproteinase-2 in hamster sebocytes. J Dermatol 39 (9), 774-780 (2012)
14. Sato, T., Watanabe, M., Hashimoto, K., Ota, T., Akimoto, N., Imada, K., Nomizu, M., and Ito, A. A novel functional site of extracellular matrix metalloproteinase inducer (EMMPRIN) that limits the migration of human uterine cervical carcinoma cells. Int J Oncol 40(1): 236-242 (2012)
15. Mishra, B., Kizaki, K., Koshi, K., Ushizawa, K., Takahashi, T., Hosoe, M., Sato, T., Ito, A., and Hashizume, K. Expression of extracellular matrix metalloproteinase inducer (EMMPRIN) and its expected roles in the bovine endometrium during gestation. Domest Anim Endocrinol 42(2): 63-73 (2012)
16. Mishra, B., Kizaki, K., Sato, T., Ito, A., and Hashizume, K. The role of extracellular matrix metalloproteinase inducer (EMMPRIN) in the regulation of bovine endometrial cell functions. Biol Reprod 87(6): 149 (2012) 
 
 

最近のトピックス

1)沖縄産柑橘シ-クワ-シャ由来ノビレチンがマトリックスメタロプロテア-ゼ(MMP)の産生抑制に起因した関節破壊防止作用、ガン転移阻害作用(特許取得済み)をもつことを発見。

2)ノビレチンが既知ざ瘡治療薬と同等の皮脂産生抑制作用を、さらに蓄積された皮脂の排泄促進作用を有することを見出した。

3)中国産生薬雷公藤(triptolide)の抗関節リウマチ作用および抗ざ瘡作用(特許取得済み)を見出した。

4)関節リウマチや変形性関節症の関節機能損失には,軟骨プロテオグリカンを特的に分解するアグリカナーゼが重要である。温州ミカン成分に強いアグリカナーゼ産生阻害作用があることを確認し,新規関節破壊保護剤として開発。

5)ハムスタ-耳介部の皮脂腺より脂腺細胞の分離培養法を確立。上皮成長因子や活性型ビタミンD3が皮脂産生抑制因子として、プロスタグランジンJ2が皮脂産生促進因子として機能することを発見した。

6)皮脂腺からの抗菌活性物質(ヒストンH3)の分泌において、皮脂腺独自の分泌機構(セボソームと命名)を発見。

7)Propionibacterium acnes (P. acnes)が皮脂腺独自のシトクロムP450依存的なPGJ2の産生促進を介して皮脂産生を増強することを発見。また、P. acnesは皮脂産生のみならず、皮脂分泌をも促進することを見出した。

9)マイタケ(きのこ)に皮脂産生促進成分があること,さらにそれを含むクリーム等がカサカサ肌に有用であることを検証.皮脂の産生制御がスキンケアにおいて非常に重要であることを提唱している(特許取得済み)。

10)抗癌剤のゲフィチニブを投与された患者においてざ瘡(ニキビ)様皮疹が高頻度に発症する。この副作用機構として、皮脂腺における皮脂産生がゲフィチニブにより増強されることを発見。

11)皮脂腺において細胞膜トランスポーターを介した新規皮脂分泌機構を発見。これは従来の細胞死(アポトーシス)による皮脂分泌とは異なる概念であり、新たなざ瘡(ニキビ)治療薬の開発に繋がる。さらにP. acnesがトランスポーター依存的皮脂分泌を促進することを見出した(投稿中)。

12)ガン転移促進因子EMMPRINが従来の機能とは異なる機構でガン細胞自身の運動性を促進することを解明すると共に,同分子を標的とするガン転移抑制ペプチドの開発を行った(特許取得済み)。

13)紫外線は皮脂腺におけるHPA axisを活性化することで皮脂の産生・分泌を促進すること、近赤外線は皮脂産生・分泌に影響しないが、皮脂腺を肥大化させることを見出した。

14)近赤外線(NIR)が光老化促進作用を示すこと、900-1000 nmの NIRが皮膚障害誘発波長であることを見出した。

15)日本人由来の脂腺細胞を樹立した。