分子生物物理学教室を志望される学生の皆さんへ

 分子生物物理学教室は、分子レベルで生物を理解する、分子レベルで薬の働きを理解する、そして薬の候補のデザインと合成を行う、実験系の研究室です。具体的には、PCRや遺伝子組み換え操作を行い、組み換え体(宿主)である大腸菌などの大量培養と、そこから疾患に関連するタンパク質の精製を行います。タンパク質分子の立体構造を解析するため、最新の多次元NMR法やX線結晶構造解析を用います。タンパク質分子の立体構造がわかると、結合する薬(リガンド)の分子構造をデザインできます。そして実際にその合成や評価も行っています。

 分子生物物理学教室は、講義では物理化学I,II,IIIを担当しています。講義で習った量子化学や熱力学、反応速度論の内容を苦手だと思っている人は多いことでしょう。じっくり学べば良いのです。当教室において大切なのは、(こっそり言いますね)実は物理化学の成績が良かったということよりも、組み換えタンパク質の調製や化合物の合成といった、結果についてゴマカシの利かない実験を、丁寧に粘り強く、ときには大胆にできること。。

 その昔、タンパク質精製ができるひと、有機合成ができるひとは、くいっぱぐれがないと研究業界では言われた時代があります。タンパク質精製や有機合成を成功させるには、一度の失敗であきらめずに粘り強く進めることが必要です。そこで大切なのは、精神論ではなく、丁寧に実験をコントロールすること、うまくいかないときの結果を論理的に分析し、対応策を立案する、そしてそのサイクルを繰り返す、、ということです。タンパク質精製や有機合成をやっていると、こういった姿勢が自然に身につきます。このような人材は、他の分野(文系でも)にいっても、自身で仕事を進めることができるでしょう。タンパク質精製と有機合成は当教室の大きな柱です。一緒に、目と頭と手をフルに使って、目の前のタンパク質や化合物に取り組みませんか? (もしも物理化学やプログラミングが得意なひとがいたら、NMRにどっぷり向き合うのも面白いです。パルスシーケンスをデザイン(パルスプログラミング)することで、狙った情報をもつスペクトルが得られるのは、多次元NMRならではの、他の分光法にはない大きな醍醐味です。)

 

・実験コースの皆さん

 少なくとも1回は学会発表を行いましょう(薬学会、生物物理学会、NMR討論会、ケミカルバイオロジー学会等々、機会はたくさんあります)。自身の研究をまとめ、発表を磨き、実際に学会で他の研究者と討論するということは、大変良いトレーニングになります。さらに、成果を論文として発表することが理想です。論文として発表するには、研究内容が世界で初の知見であり、さらに膨大な内容を整理して英語で適切にまとめる必要あります。査読とよばれる審査もありますから、なかなか大変ですが、これらの経験は必ず皆さんを成長させます。

・調査研究コースの皆さん

 生体分子の構造解析やメディシナルケミストリーの分野では、最新、あるいは近年の話題(すなわち論文)が、医薬品開発の最先端、あるいはその半歩前の話題と直結しています。たとえば
Covid-19のタンパク質の構造解析や、その他の抗ウイルス薬に関連した構造解析、分子標的薬に関するタンパク質の構造解析、それらの阻害剤のデザイン、実際の合成の話題など、たくさんあります。実際に原著論文を「徹底的に」読みこみ、自分の頭で考えて整理し、発表することは、教科書を読むのとは異なる次元で皆さんを成長させます。

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