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感染症・腫瘍・免疫疾患に対する免疫調節の可能性を探る

研究室のねらい

ヒトはさまざまな生物と共生関係にある.なかでも微生物は常在菌叢として存在し,体表を覆い尽くしている.同時に,病原性微生物は体表を突破し,体内に侵入して病気を起こす.免疫学教室では,微生物菌体成分と宿主との相互作用をさまざまな角度から解析し,免疫異常が関わる,難治性疾患の診断・治療薬の創出をめざす。

研究室メンバー

(役職:氏名 / 学位)

教授  : 安達禎之/博士(薬学)
准教授 : 多田 塁/博士(薬学)
講師  : 山中大輔/博士(薬学)
助教  : 菅野峻史/博士(薬学) 

研究員 : 4名
事務  : 1名
博士課程: 2名 
6年生 : 7名 
5年生 :10名 
4年生 :10名

(2023年4月現在)

担当講義

(科目: 学年【前期・後期】 /教員名)

免疫学  :2年【後期】/安達禎之,多田塁,山中大輔,菅野峻史

臨床免疫学:3年【前期】/安達禎之,山中大輔,菅野峻史

細胞工学 :3年【前期】/安達禎之,山中大輔

 

薬剤師の職能と自己将来展望:4年【前期】/安達禎之

総合系ゼミナール3    :2年【後期】/安達禎之,菅野峻史

 

免疫学実習  :2年【後期】/安達禎之,多田塁,山中大輔,菅野峻史

人間と薬学Ⅰ :1年【前期】/安達禎之,多田塁,山中大輔,菅野峻史

総合演習Ⅱ  :4年【後期】/安達禎之

総合薬学演習Ⅰ:6年【後期】/安達禎之

 

卒論関連科目  :科別英語特論:4年, アドバンス英語:5年

ラボラトリー演習:5,6年,

課題研究    :4 ,5,6年/安達禎之,多田塁,山中大輔,菅野峻史

 

創薬生化学特論:大学院・薬科学専攻/安達禎之

免疫分子論  :生命科学部大学院/安達禎之

 

 

(2023年度) 

研究テーマと概要

1)深在性真菌症の早期診断法の開発
病原性真菌細胞壁β-グルカンを可溶化する方法、1,3-β-グルカンや1,6-β-グルカンに特異的な結合タンパク質を遺伝子組換え型タンパク質として大量発現する方法、各タンパク質を組み合わせたスピーディーかつ高感度で検出する手法を開発したので,既存のカブトガニを用いた診断試薬に代わる新しい深在性真菌症早期診断法の確立をめざしている。

2)花粉症の病態解析と新規治療法の開発研究
花粉に含まれる多糖体の自然免疫活性化作用が花粉症発症に必須であることを免疫受容体欠損マウスの動物実験モデルから明らかにした。花粉の糖鎖と自然免疫受容体との相互作用およびアレルギー発症メカニズムを詳細に解析して、花粉症の新規治療法の開発をめざしている。

3)ワクチン効果を高める免疫成分の開発研究
免疫記憶はT細胞やB細胞などの獲得免疫系細胞の特徴であることが常識とされていましたが、近年の研究から、自然免疫細胞も一度活性化されるとその作用が記憶され、次の感染に備えて効果的な感染防御作用を示す「訓練免疫」という働きをすることが分かってきました。どんな成分が訓練免疫を効果的に高め、感染症に強い体を作ることができるのか、訓練免疫を高めてワクチンの働きを強化する効果的な方法を探るために、自然免疫細胞の活性化物質とワクチン製剤との関係を細胞培養や動物実験を用いて解析しています。
 

主な研究業績2023年度

2023年度研究室の業績」をご参照ください。
「2022年度」以前の研究室の業績はこちらをご参照ください。

 

 

免疫学教室の研究紹介

免疫学教室は、真菌感染症の早期診断と治療やアレルギーの根治治療への貢献を目指して、自然免疫の反応機構を分子レベルで解析する研究を行っています。

1) 真菌症の早期診断を目指した新たな診断薬の開発
深在性真菌症は、臓器移植、がんの薬物治療、生活習慣病、高齢化など日本の医療が抱えている問題に密接に関わる感染症で、今後、益々増加すると予測されています。深在性真菌症の治療には抗真菌剤を用います。しかし、原因となる病原体の特定が難しいだけでなく、早期に治療を行わなければ重症化しやすく、致死率が高い感染症です。真菌症治療で重要なことは、いかに早く正確に診断できるかです。
免疫学教室は真菌の細胞壁多糖β-グルカン(BG)に着目し、その化学構造の分析、BGやAGに対する免疫反応を解析し、β-グルカン抗体、グルカンに対する免疫細胞の受容体解析を進めてきました。ヒトの血液には本来、BGに反応性の抗体があり、真菌感染に伴いそのβ-グルカン抗体価が変動することを見出しています。さらに、深在性真菌症の患者血中にはBGが検出されます。しかし、その量は数十 pg/mLと微量です。この微量なBGを検出するための分子プローブを我々は研究しています。現在、無脊椎動物のβ-グルカン受容体タンパク質やβ-グルカン分解酵素の遺伝子改変によって得られた分子プローブを開発し、現行の診断薬の問題点である非特異的な検出を低下させることができるか、深在性真菌症をより正確に高感度で診断する新たな診断薬の開発に挑戦しています。

新しい深在性真菌症診断薬の測定原理の一例
真菌から放出されるβ-グルカンを捕らえて、検出する仕組みを開発しています。

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2)アレルギー疾患(花粉症)の発症機構の解析
アレルギー増悪反応の機序はまだまだ分からないことが多いのです。アレルゲン(抗原)に対するIgE抗体が産生されることはよく知られていますが,自然免疫の活性化が発症の鍵を握っている可能性があります。我々は、花粉症などのアレルギーの発症に自然免疫系受容体が関与するかどうかデクチン-1ノックアウトマウスを使った動物モデルで研究しています。これまで、このノックアウトマウスの樹状細胞は花粉粒子に対する反応性が著しく低下していること、花粉感作で誘導される花粉アレルゲン特異的なTh2サイトカインやIgE産生がこのノックアウトマウスではほとんど誘導されないことを見出しました。このマウスで欠損している自然免疫系受容体が花粉症発症において重要な鍵を握っているのではないかと推察し、研究を進めています。将来的には、この受容体の働きを詳細に解析し、上手に受容体の機能をコントロールすることで、Th2細胞などが関わるタイプ2免疫反応を制御して、根本的な花粉症治療法を開発したいと研究しています。

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3)機能性食品による免疫調節作用の解析とその応用研究
近年、機能性食品による免疫調整機構が次々と明らかになっています。私たちは特に食用真菌(キノコや酵母)や藻類(ユーグレナ)による免疫調整作用に高い関心を持っています。これまでに、遺伝子工学技術を応用して食品に含まれるBGやポリフェノールの免疫調節メカニズムを分子レベルで解析してきました。現在は、これらの分子を用いて感染症予防のための新規ワクチンアジュバントの開発や、アレルギー治療のための新規キャリアの開発を目指しています。

4) 臨床現場(薬局)との連携による調査研究
 6年制薬学教育では、大学と臨床現場の連携強化を重視しています。薬局現場での薬剤師業務における課題を解析し、その改善策を立て、患者様の健康をいかに効果的にサポートできるのか。日々対策を考え、改善を継続することが重要と考えられます。免疫学教室は薬局との共同研究で、来局患者様等を対象に真菌症や免疫疾患に関するアンケート調査を行い、患者様が抱えている問題点などを分析し、薬剤師の視点でそれをどう解決できるのかを提案し,薬剤師の職能を高めるための研究を行っています。
具体的には、提携する保険薬局店舗での患者アンケート調査等を行います。課題立案とその対策について現場薬剤師の協力のもと調査・検討し、薬剤師の職能向上への貢献を目指しています。これまで調査研究コースの卒論生は提携薬局の現場で行ったアンケート調査結果をまとめ、研究会や薬局学会等で発表しています。文献調査だけでなく、自ら得た臨床データで課題研究論文を作製することは貴重な経験になると思っています。将来、薬局薬剤師として活躍したい卒論生にお奨めしたい研究活動です。