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薬物の生体内代謝と安全性に関する研究

研究室のねらい

 本研究室では、「薬物の生体内代謝と安全性に関する研究」をテーマに、薬をはじめとする様々な化学物質が生体内で代謝される際に生成する有害代謝物の正体やその生成、そしてその解毒機構を分子レベルで明らかにする研究を行っています。これまでに、発がん物質の代謝的活性化および不活性化機構、ソリブジン薬害の発生機構を解明してきました

研究室メンバー

CellsPhoto.jpg(役職:氏名 / 学位)
教授: 山折 大(薬学博士)
准教授:小倉健一郎(薬学博士)
講師:  西山貴仁(薬学博士)
助教:  大沼友和(博士(薬学))

6年生:14名
5年生:11名
4年生:10名
(2021年9月現在)

担当講義

(科目: 学年【前・後期】 /教員名)
2年【前期】健康・環境系ゼミナール/山折 大、小倉健一郎、西山貴仁、大沼友和
3年【前期】化学物質と生体影響/山折 大、小倉健一郎、西山貴仁、大沼友和
3年【後期】病態生理学・薬物安全性学実習/山折 大、小倉健一郎、西山貴仁、大沼友和
3年【後期】化学物質の毒性と安全性/山折 大、小倉健一郎、西山貴仁、大沼友和
4年【前期】医療薬学演習II/小倉健一郎、西山貴仁
その他 薬学英語、PBLT、総合演習講義、総合薬学演習講義

研究テーマと概要

1.薬物間相互作用の機序解明

   医薬品の中には、薬物間相互作用を引き起こすことが分かっていても機序が明らかにされていないものが数多く知られています。また、ソリブジンと5-フルオロウラシル(5-FU)の様に、薬物間相互作用が引き金となって重篤な副作用を発現し死亡する例も知られています。したがって、薬物間相互作用の機序を明らかにすることは、医薬品をより適正に使用していくためにとても重要です。本研究室では、これまで知られている相互作用から最近問題となった相互作用まで幅広く情報を収集・解析し、機序解明のための基礎研究に取り組んでいます。

ソリブジン薬害

2.より安全な化学療法に向けた表現型検査法の開発

 現在、がんの化学療法は術前・術後の補助療法および進行・再発の治療法として重要な役割を担っています。しかしながら、抗がん剤の有効治療域は非常に狭いものであり、個人差も現れやすく、副作用発現には十分な注意が必要です。そのようながんの化学療法における大きな問題の一つが、遺伝的多型性による抗がん剤に対する感受性の個人差です。例えば、5-FUの解毒代謝酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)欠損者に5-FUを用いたがん化学療法を行うと、致死的な副作用が発現することが明らかになっています。しかしながら、DPD欠損者の発見は困難で、医療現場では副作用が現れてから対処するのが現状です。そのような欠損者を早期に発見し、より安全な化学療法の実施に貢献できるスクリーニング方法の開発や変異DPD酵素機能の評価系の開発を行っています。

3.薬物代謝第Ⅱ相酵素の機能とその役割の解明

 薬物代謝酵素には第Ⅰ相反応を触媒する酵素群と第Ⅱ相反応を触媒する酵素群が存在します。主に化学物質の抱合反応を触媒する第Ⅱ相酵素群として、硫酸転移酵素(SULT)、UDP-グルクロン酸転移酵素、グルタチオンS-転移酵素やアセチル基転移酵素などが知られています。本研究室では、薬物代謝第Ⅱ相酵素が関与するタバコに含まれる発がん物質の組織特異的発がん機構やビタミンK類の生体内における変換機構について研究しています。また、現在では、SULTとその補酵素生成に関与する酵素(PAPSS)の機能解析や生体内での役割を明らかにする研究を行っています。

4.和漢薬や植物成分による生体防御とがん抑制の機構解明

 

 有毒化合物からの生体防御機構として、3.で挙げたような活性代謝物や活性酸素を解毒する薬物代謝酵素が存在しますが、これらの酵素を増加させることによって解毒代謝機能を増強することが可能になります。現在、ARE/Nrf2/Keap1経路と呼ばれる細胞内シグナル伝達経路によって、種々の解毒代謝酵素が誘導されることが明らかにされています。有名な例としては、ブロッコリーなどに含まれるスルホラファンがこの経路を活性化し、生体防御に働くとされています。本研究室では、和漢薬や植物成分によってこのシグナル伝達経路が活性化または阻害されるか否かを明らかにし、和漢薬等による生体防御亢進に伴うがん予防または抗がん剤の作用増強に伴うがん抑制を可能にする研究を行っています。

主な研究業績(過去3年間)

Nishiyama T, Hayashi N, Yanagita H, Ohnuma T, Ogura K, Hiratsuka A, 4-(Hydroxymethylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone glucuronide has the potential to form 2'-deoxyguanosine and N-acetylcysteine adducts. J Toxicol Sci 44 (10), 693-699 (2019).

Nishiyama T, Masuda Y, Izawa T, Ohnuma T, Ogura K, Hiratsuka A, Magnolol protects PC12 cells from hydrogen peroxide or 6-hydroxydopamine induced cytotoxicity. J Toxicol Sci 44 (11), 753-758 (2019).

Nishiyama T, Masuda Y, Izawa T, Ohnuma T, Ogura K, Hiratsuka A, Magnoliae Cortex extract protects PC12 cells from cytotoxicity induced by hydrogen peroxide or 6-hydroxydopamine through enzyme induction. Fundam Toxicol Sci, 6, 107-112 (2019).

Ishiguro M, Takenaka R, Ogura K, Hiratsuka A, Takeda H, Kawai D, Tsukino H, Fujiki S, Okada H, A Japanese patient with gastric cancer and dhydropyrimidine dehydrogenase deficiency presenting with DPYD variants, Acta Med. Okayama, 74 (6), 557-562 (2020).

最近のトピックス

1.「ソリブジン薬害」の発生メカニズムの解明。抗帯状疱疹薬ソリブジンと5-フルオロウラシル(5-FU)系抗がん薬との併用による薬害の発生機構を、遺伝子工学的手法を用いて分子レベルで初めて明らかにした。

2.タバコ煙中に含まれる発がん性物質NNKが活性化された後、グルクロン酸抱合を受けて準安定状態となり、標的臓器に輸送された後再び活性体を放出する可能性を初めて明らかにした。

3. 和漢薬成分として使用される桂皮の抽出物に、肺がん細胞の抗がん剤抵抗性を低下させる働きがあることを初めて明らかにし、その機構はNrf2という遺伝子抑制によるものであることを報告した。