野水基義の研究概要

細胞接着分子から創薬をめざしてプロジェクトを展開中!

キーワード:細胞外マトリックス 基底膜 ラミニン 再生医療 組織工学 ペプチド 細胞接着

基底膜は、皮膚の表皮と真皮の間など組織と組織の間に存在するマジックテープのような細胞外マトリックスである。基底膜は器官・組織を保つための支持体として働くだけでなく、細胞接着、個体の発生や分化、血管新生、創傷治癒促進などの生命現象に深く関わっている。最近では、皮膚の「基底膜」ケアが注目され基底膜中のタンパクを活用した基礎化粧品が多く開発されるなど、様々な分野で基底膜の機能とその重要性が認識されつつある。基底膜は4型コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニンなどの巨大分子からなる三次元メッシュ構造をしている。中でもラミニンは細胞の活動に密に関わり、基底膜のほぼすべての機能を有している主役的なタンパクとして注目されている。ラミニンは現在までに15種類のアイソフォーム(ラミニン1-15)が報告されており、例えばラミニン1は主に発生の初期、ラミニン2は筋肉に多く発現するといったように、組織特異的、あるいは発生段階特異的に発現している。我々は多様な機能を有するラミニンに注目し、これまでに様々な組み換えタンパクとアミノ酸配列を網羅する約2000種類の合成ペプチドを用いたシステマティックなスクリーニングからラミニンの生物活性部位を数多く同定してきた。これらのペプチドの中には、インテグリンやシンデカン(膜貫通型プロテオグリカン)をレセプターとするものや、血管新生や神経突起伸長を促進するものが存在し、細胞特異的な活性をもつこともわかってきた。このようにペプチドを用いて分子解剖することによって複雑な生物活性をもったラミニンの機能の解明を行っている。

 また、ペプチドは全合成可能で活性がクリアなため、目的に応じて様々な疾患に利用できる可能性がある。そこで我々はラミニン由来の活性ペプチドを用いて、基底膜様の作用を有する再生医学の分野に応用可能な人工基底膜の創製を目指して研究を行ってきた。例えば、高分子多糖類であるキトサンの膜にペプチドを結合させるアプローチを行っている(右図)。細胞に対してサイレントな膜に様々なラミニン由来の活性ペプチドを固定化させたペプチド-キトサン膜を作成して、その生物活性の評価を行った。その結果、膜に固定化することでペプチドの活性は増強され、細胞の分化も促進できることが明らかになった。さらに、目的細胞あるいは組織に合わせて、インテグリンとシンデカンに結合する2種類のペプチドを組み合わせてキトサン膜に固定化させることにより、細胞接着のみならず細胞の分化をコントロールすることができる可能性を示すことができた。さらに、現在開発したペプチド-キトサン膜を実際の動物実験に展開している。皮膚組織の再生のために必要な表皮細胞の移植をターゲットにしてペプチド-キトサン膜が表皮細胞のキャリアとして応用可能かどうか実験した。ペプチド-キトサン膜上にヒト由来表皮細胞を播種し、2時間インキュベートしたところペプチド-キトサン膜に細胞がびっしりと接着していることが確認された。その細胞つき膜をヌードマウスの背中に移植し、1週間後に組織を分析したところ、マウス腹膜上にヒト由来表皮細胞が確認された。さらに確認された表皮細胞は、基底細胞から扁平に分化して表皮細胞の分化していることが明らかになった。

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